ドイツ映画祭
HORIZONTE
2023年
ドイツ映画祭Horizonte 2023は4月20日(木)ー23日(日)、渋谷のユーロライブで開催されます!2021年と2022年に発表された7本の新作をラインナップしました。〈道を拓く女たち〉を中心としたドイツ社会の声を新鮮なパースペクティブでお届けします。
「柔らかくしなやかに、だが全力で成果を勝ち取る」ー『フェモクラシー 不屈の女たち』でインタビューに応える、リタ・ジュースムート(元連邦議会議員で連邦青少年・家族・保健大臣も務めた)の言葉です。
ドイツ映画祭Horizonte 2023のオープニング作品『フェモクラシ― 不屈の女たち』は、戦後再出発した西ドイツから統一後メルケル政権時代までの旧西ドイツの政治における女性パイオニアたちを描きます。彼女たちは、男性議員や世間から激しい攻撃を受けながらも、政治と社会の中で居場所を掴み取っていきました。登場する女性たちは明るくウィットに富んでおり、彼女たちのそんな魅力が未知の領域へ進出する際の最強の武器であったことが見てとれます。
今年の映画祭HORIZONTE 2023では、そのような女性たちにフォーカスします。「与えられた」状況を疑わずに受け入れるのではなく、複雑化し急激に変化する現実に鋭く反応し、その中で方向性を見出す女性たち。彼女たちは、人間関係にダイナミックな変化を起こすのみならず、自分自身も変わりながら、変革の一部を成し変化を共に生きるのです。
今年の映画祭のテーマは、ドイツ映画界の変化も映し出しています。プログラム7作品中4本と女性監督作品が半数以上。ドイツ映画の立ち位置を示す7本の作品が、新鮮なパースペクティブでドイツ社会の声を届けます。
ドイツ映画祭Horizonte 2023のオープニング作品『フェモクラシ― 不屈の女たち』は、戦後再出発した西ドイツから統一後メルケル政権時代までの旧西ドイツの政治における女性パイオニアたちを描きます。彼女たちは、男性議員や世間から激しい攻撃を受けながらも、政治と社会の中で居場所を掴み取っていきました。登場する女性たちは明るくウィットに富んでおり、彼女たちのそんな魅力が未知の領域へ進出する際の最強の武器であったことが見てとれます。
今年の映画祭HORIZONTE 2023では、そのような女性たちにフォーカスします。「与えられた」状況を疑わずに受け入れるのではなく、複雑化し急激に変化する現実に鋭く反応し、その中で方向性を見出す女性たち。彼女たちは、人間関係にダイナミックな変化を起こすのみならず、自分自身も変わりながら、変革の一部を成し変化を共に生きるのです。
今年の映画祭のテーマは、ドイツ映画界の変化も映し出しています。プログラム7作品中4本と女性監督作品が半数以上。ドイツ映画の立ち位置を示す7本の作品が、新鮮なパースペクティブでドイツ社会の声を届けます。
映画祭予告編
ジャーナリストでもあるケルナー監督は、アーカイブ映像を織り交ぜながら、当時の女性政治家たちにインタビューを行った。彼女たちの思い出話は、可笑しくも苦く、不条理で、時に恐ろしいほどに現在に通じるものがある。西ドイツの過去を多角的に振り返ることで、現在と未来に貴重な示唆を与えてくれる、洞察に満ち溢れた作品。
監督:トルステン・ケルナー
ドイツ、2021年、100分
主演のサラ・ファジラットが、プロデューサーも務めた作品で、数々の賞に輝いた。監督とカメラも同世代の女性で、3人が共同で脚本を手掛けた本作には、等身大のベルリンが映し出されている。
監督:エリーヌ・ゲーリング
ドイツ、2021年、79分
出演:サラ・ファジラット、サラ・クリモスカ、ジャヴェ・アセフジャ、アンドレアス・マルクアルト、ブリギッテ・クラ―マー、他
監督:アンドレアス・クライナート
ドイツ、2021年、157分
出演:アルブレヒト・シュッフ、イェラ・ハーゼ、イェルク・シュットアウフ、アンヤ・シュナイダー、他
受賞:2021年タリン・ブラックナイト映画祭グランプリ受賞、ドイツ映画賞2022年にて9部門で受賞
監督:マリア・シュペート
ドイツ、2021年、217分
受賞:第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞および観客賞受賞作品。
監督:アンドレアス・ドレーゼン
ドイツ・フランス、2022年、119分
出演:メルテム・カプタン、アレクサンダー・シェア、チャーリー・ヒューブナー、ナズミ・キリク、他
受賞:第72回ベルリン映画祭、脚本賞・優秀俳優賞を受賞
アニカ・ピンスケの長編デビューとなる本作は、いまだに解消されない東西格差、都市と地方、家族とキャリアのはざまでゆれる現代女性の葛藤を、ユーモラスで鋭い会話と的確な人間描写によって丁寧に描きだしている。
監督:アニカ・ピンスケ
ドイツ、2022年、89分
出演:アンネ・シェーファー、アンネ=カトリン・グミッヒ、ユーディット・ホフマン、マルセル・コーラー、他
監督:サブリナ・サラビ
ドイツ、2021年、116分
出演:サスキア・ローゼンダール、リック・オーコン、ゴーデハルト・ギーゼ、他
受賞:第74回ロカルノ映画祭優秀俳優賞受賞
フェモクラシー 不屈の女たち
ジーパンで議会に立った緑の党の女性たち、中絶論争、反核運動――ドイツ連邦議会の女性議員の歩みを、戦後から現在まで追うドキュメンタリー。民主的な決定過程への参加を求め、成功と肩書の上にふんぞり返った男性たちを相手に闘った女性議員のパイオニアたち。セクハラと先入観に臆することなく野心的、そして限りない忍耐力で自分の道を追求する女性たちの姿が頼もしくウィットに富んでおり、勇気を与えてくれる。ジャーナリストでもあるケルナー監督は、アーカイブ映像を織り交ぜながら、当時の女性政治家たちにインタビューを行った。彼女たちの思い出話は、可笑しくも苦く、不条理で、時に恐ろしいほどに現在に通じるものがある。西ドイツの過去を多角的に振り返ることで、現在と未来に貴重な示唆を与えてくれる、洞察に満ち溢れた作品。
監督:トルステン・ケルナー
ドイツ、2021年、100分
私はニコ
イラン系ドイツ人のニコは介護の仕事をしている。明るく前向きな性格のニコは、気さくで親身な対応から利用者たちにも人気がある。親友のローザとベルリンの夏を楽しんでいたが、ある日、人種差別的な理由から路上で襲撃を受ける。事件を境に、以前の明るさを失い、周りと距離を置くようになってゆくニコ。それまで当たり前だった日常は不安に侵され、友人や患者とのつながりも薄れてゆく。本作は、ニコが空手のトレーニングや人との出会い、ローザの支えを通じて、危機を乗り越えてゆく過程を、繊細かつパワフルに描く。主演のサラ・ファジラットが、プロデューサーも務めた作品で、数々の賞に輝いた。監督とカメラも同世代の女性で、3人が共同で脚本を手掛けた本作には、等身大のベルリンが映し出されている。
監督:エリーヌ・ゲーリング
ドイツ、2021年、79分
出演:サラ・ファジラット、サラ・クリモスカ、ジャヴェ・アセフジャ、アンドレアス・マルクアルト、ブリギッテ・クラ―マー、他
ディア・トーマス 東西ドイツの狭間で
第二次世界大戦中にイギリスに亡命していたユダヤ人のブラッシュ一家は、文化副大臣を務めた父ホルストをはじめ、ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)の建国に貢献した。作家志望の息子のトーマスは、1968年、プラハの春に賛同、ソ連の軍事介入に反対し抗議運動にかかわり、その活動により逮捕、投獄される。保護観察処分付きで仮釈放されたブラッシュは、工場で働きながら愛や革命、死をテーマに執筆活動をする。。しかし、東ドイツでの作品の出版が禁じられ、1976年亡命した西ドイツで成功するも、西側にも溶け込めない。分断ドイツのイデオロギーと価値感に、芸術を通じて挑み続け、人生を通して居場所を求め続けた作家、映画監督、演出家、脚本家トーマス・ブラッシュ。反抗心と矛盾を抱えた天才的芸術家の物語。監督:アンドレアス・クライナート
ドイツ、2021年、157分
出演:アルブレヒト・シュッフ、イェラ・ハーゼ、イェルク・シュットアウフ、アンヤ・シュナイダー、他
受賞:2021年タリン・ブラックナイト映画祭グランプリ受賞、ドイツ映画賞2022年にて9部門で受賞
バッハマン先生の教室
ドイツ中央西部ヘッセン州のシュタットアレンドルフ。人口約21,000人のうち70%が移民の背景を持ち、うち約5.000人がイスラム教徒という工業都市。そんなシュタットアレンドルフのとある中学校で、定年を間近に控えた教師ディーター・バッハマンは、12歳から14歳、12か国の子どもたちが在籍する6年B組を担任する。母語もメンタリティーも多様な生徒たちと、音楽やジャグリングで遊びながら授業するバッハマン先生のクラスを1年間追ったドキュメンタリー。校外学習では、第二次世界大戦中、ヨーロッパ最大の爆薬生産拠点であり、大部分の労働者がドイツ軍の占領地やミュンヒミューレ外部収容所から強制的に連れてこられたという町の歴史にも向き合う。第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞および観客賞受賞作品。監督:マリア・シュペート
ドイツ、2021年、217分
受賞:第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞および観客賞受賞作品。
クルナス母さんvs.アメリカ大統領
ドイツ生まれのトルコ人のムラート・クルナスが訴訟も裁判もないままアメリカ軍のグアンタナモ湾収容キャンプに収容された。ムラートの母親で専業主婦のラビイェは、海外で苦しむ息子を助けるため奔走するが、警察や行政に相談を重ねても埒が明かない。ある日、ラビイェは人権派弁護士のベルンハルト・ドッケと出会う。そして理性的でドライなドッケとエネルギッシュなラビイェ母さんが、アメリカの合衆国最高裁判所でジョージW.ブッシュ大統領を相手に訴訟を起こすことに。シリアスなテーマを扱いながら、どこかコメディタッチでユーモラスでもある本作。主演を務めるコメディアンのメルテム・カプタンは、ベルリン国際映画祭で最優秀主演俳優賞に贈られる銀熊賞に輝いた。第72回ベルリン国際映画祭、脚本賞・最優秀俳優賞受賞作品。監督:アンドレアス・ドレーゼン
ドイツ・フランス、2022年、119分
出演:メルテム・カプタン、アレクサンダー・シェア、チャーリー・ヒューブナー、ナズミ・キリク、他
受賞:第72回ベルリン映画祭、脚本賞・優秀俳優賞を受賞
あしたの空模様
生まれ育った旧東ドイツの田舎から脱出し、成功への道を歩むアラフォーのクララ。ベルリンで研究者としてのキャリアを積みながら、シェアハウス暮らし、ティーンエイジャーの娘とは週末だけ一緒に過ごすという、既存の価値観にとらわれない都会生活を送っている。母の60歳の誕生日に帰郷したクララは、生き方は自分で決めるという理想を改めて見つめ直すことになる。自由な生き方の代償とは?アニカ・ピンスケの長編デビューとなる本作は、いまだに解消されない東西格差、都市と地方、家族とキャリアのはざまでゆれる現代女性の葛藤を、ユーモラスで鋭い会話と的確な人間描写によって丁寧に描きだしている。
監督:アニカ・ピンスケ
ドイツ、2022年、89分
出演:アンネ・シェーファー、アンネ=カトリン・グミッヒ、ユーディット・ホフマン、マルセル・コーラー、他
焦燥の夏
ドイツ北部メクレンブルク地方の片田舎。24歳のクリスティンは、長年の恋人ヤンの実家である酪農家に同居し、牛舎での仕事を手伝っている。子供時代を彩った東西ドイツ統一後の楽観的な雰囲気は、とうに消えている。彼との関係もうまくいかず、酒で苦しさ紛らわしては、殺伐とした日常から抜け出すことを思い描くだけの日々。真夏の陽射しの下で、時間は止まっているかのようだ。そこに風力発電のエンジニア、クラウスがハンブルクからやってきて、世界が再び巡り始める。長編2作目となるサブリナ・サラビ監督は、殺風景な田舎の日常を官能的で雰囲気に満ちた世界に変容させた。主演のサスキア・ローゼンダールは、圧倒的な演技で第74回ロカルノ映画祭最優秀女優賞を受賞した。監督:サブリナ・サラビ
ドイツ、2021年、116分
出演:サスキア・ローゼンダール、リック・オーコン、ゴーデハルト・ギーゼ、他
受賞:第74回ロカルノ映画祭優秀俳優賞受賞
© Goethe-Institut Tokyo
クリスタ・ニッケルス(来日)
1952年生まれ。集中治療専門看護師。1979年、ノルトライン=ヴェストファーレン州緑の党の設立メンバーとなる。ドイツ連邦議会議員を5期(1983-85年、1987-90年、1994-05年)務め、保健省政務次官、連邦薬物・依存問題担当官、人権人道支援委員会の委員長などのポストを歴任。薬物問題における改革の成果と人権問題への取り組みが評価され2008年には連邦共和国功労勲章を受章。また、ハインリヒ・ベル財団(緑の党の政治財団)の設立にも貢献した。「フェモクラシ― 不屈の女たち」に登場する女性議員の一人。アニカ・ピンスケ(来日)
1982年生まれ。ベルリンとポツダムの大学で哲学と文学を学んだのち、映画制作に関わるようになる。世界的に注目を集めたマレン・アーデ監督の「ありがとう、トニ・エルドマン」で助監督を務める。2011年よりベルリンのドイツ映画・テレビ大学で演出専攻。短編映画が各地の映画祭で上映され、注目を集める。2022年のベルリン国際映画祭にて監督、共同脚本およびプロデュースを手掛けた長編デビュー作「あしたの空模様」を発表。アンドレアス・クライナート(オンライン)
映画監督及びバーベルスベルク映画大学教授。旧作で最も知られている監督作品は「Verlorene Landschaft」(1992年)及び「Wege in die Nacht」(1999年)。旧東ドイツの文学界の異端児トーマス・ブラッシュを題材にした「ディア・トーマス 東西ドイツの狭間で」は2022年のドイツ映画賞の10部門で受賞を果たした。ディーター・バッハマン(オンライン)
元教師、石工、ギター奏者。ドキュメンタリー映画「バッハマン先生の教室」の出演者。本映画を通じて音楽などを活用した、多様な背景を持つ子供たち一人ひとりに寄りそう授業で知られるようになった。サブリナ・サラビ(オンライン)
映画監督。初期の短編映画何本かが国際的な映画祭で受賞し、2019年「Prelude」で長編デビューを果たす。「焦燥の夏」はアリナ・ヘルビヒの小説を映画化したもので、ドイツにおける地方生活をありのままにさらけ出す。マリア・シュペート(オンライン)
映画監督、プロデューサー、脚本家。2本目のドキュメンタリー「バッハマン先生の教室」は2021年のベルリン国際映画祭で銀熊賞及び観客賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。エリーン・ゲーリング(オンライン)
映画監督、脚本家。ヨーロッパやアフリカで報道番組のための撮影や編集の仕事を経て、南アフリカでNGOの依頼で短編やドキュメンタリーを制作。劇映画の長編デビュー作である「私はニコ」は第42回マックス・オフュルス映画祭で劇映画賞の部門にノミネートされた。
報道関係者の皆さまからのお問い合わせはゲーテ・インスティトゥート東京広報担当までお願い致します。
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2021年
コロナ禍で一旦延期されたドイツ映画祭Horizonte 2021、いよいよ開催です!11月18日(木)より21日(日)まで、渋谷ユーロライブが会場です。ラインナップは劇映画6作品とドキュメンタリー1作品。ドイツ映画の未来を担う若手映画人に焦点を当て、多様化が進むドイツ社会への新鮮かつ生々しい眼差しを紹介します。
ドイツ映画は今、変化の過程にあります。2021年ドイツ映画祭「Horizonte」(地平線、視界)の上映作品7本のうち5本は、移民の背景を持つ監督による作品です。ここ数年は新世代の映画人が登場し、従来とは異なるドイツを物語る作品を発表しています。彼らの作品は、ドイツでの生活を自明と考えてきた人々とは異なる視点を提示し、ドイツにある多様な現実に光を当ててくれます。この光によって、これまでのドイツ映画の世界では見えなかった「色」が輝き出し、表現がより豊かになります。ドイツの現実に対する眼差しが多様化することは、ドイツ映画の充実だけでなく、私たち自身の「視界(Horizont)」を拡げ、ひいては未来の社会を共に構築するための大切な支えを作るのです。
映画祭予告編
未来は私たちのもの
イラン系移民の両親を持つミレニアル世代の青年パーヴィスは、両親がドイツで築いた安定した快適な環境で育つ。出会い系アプリのデート、レイヴやパーティで暇つぶしをしながら、地方暮らしの退屈さを紛らわせている。ある日、万引きがバレて、社会奉仕活動を命じられたパーヴィスは、難民施設で通訳として働くことになり、そこでイランからやってきた兄弟バナフシェとアモンに出会う。3人の間に微妙なバランス関係が生まれ、ドイツにおけるそれぞれの未来が平等でないことを彼らも次第に気づき始める。1994年生のファラズ・シャリアット監督による自伝的デビュー作。過激でエキセントリックな演出ながらも、ドイツにおける移民系の青年の成長を偽りのない形で描く。繊細でポップ、かつ力強く多様性を肯定する訴えが評価され、2019年のファースト・ステップス賞で最優秀長編映画に選ばれ、若い俳優たちのアンサンブルがゲッツ・ゲオルゲ奨励賞にも輝いた。2020年、世界プレミアを迎えたベルリン映画祭では2部門でテディ賞を受賞。
2020年、93分、ペルシア語、ドイツ語/日本語・ドイツ語字幕付
監督:ファラズ・シャリアット
キャスト:ベンヤミン・ラジャイブプル、バナフシェ・フールマズディ、アイディン ジャラリー、マリアム・ザレー、他
システム・クラッシャー 家に帰りたい
手の付けようのない問題児、9歳の少女ベニーを青少年課の職員は「システム・クラッシャー」と呼ぶ。里親の家庭、グループホーム、特別支援学校 ―どこに行こうと、ベニーは追い出しをくらう。安らぎを求めて、母親の元に戻りたいと願うだけなのに。しかし、母親のビアンカも、反応の読めない娘に強い不安を抱えている。ベニーの居場所が本当になくなり、解決策も見えないところに、非暴力トレーナーのミヒァがベニーと日常を共にすることになる。彼の力で少女を怒りの渦から解放することはできるのだろうか?ノラ・フィングシャイト監督の長編デビュー作はその繊細かつ強烈な演出により、2019年のベルリン映画祭で注目を浴び、銀熊賞(アルフレード・バウアー賞)に輝いた。また2020年のドイツ映画賞では8部門でローラ賞を受賞。主演のヘレナ・ツェンゲルは11歳(当時)で女優賞に輝き、ドイツ映画賞において最年少の受賞者となった。
2019年、118分、ドイツ語/日本語字幕付
監督:ノラ・フィングシャイト
出演:ヘレナ・ツェンゲル、アルブレヒト・シュッフ、リザ・ハーグマイスター、ガブリエラ=マリア・シュマイデ他
悪は存在せず
毎朝早く家を出る男は良き夫・良き父としての生活を送っているが、本当は何をしに行っているのだろう。殺人など想像できないのに、人を殺すよう命令を受ける青年がいる。恋人の誕生日にプロポーズしようとしている兵役に就く若者。医師なのに開業できない理由がある医師・・・イランにおける死刑制度にまつわるこれら4つのエピソードはドラマチックな展開を見せ、体制的な抑圧下にあって、個人の自由をどこまで守ることができるのかを問いかける。選択肢が2つしかない中で、人は「抵抗」を選ぶのか「生き残り」を選ぶのか?ドイツ在住のモハマッド・ラスロフ監督による問題作は、2020年のベルリン映画祭の金熊賞受賞作。2020年、151分、ペルシア語/日本語・英語字幕付
監督:モハマッド・ラスロフ
キャスト:エーサン・ミルホセイニ、シャガイェグ・シュリアン、カヴェ・アハンガル、アリレザ・ザレパラスト、サラール・ハムゼー、ダリア・モフべり、マフタブ・ゼルヴァティ、バラン・ラスロフ
ベルリン・アレクサンダープラッツ
現代ドイツ文学の傑作アルフレート・デブリーンの小説『ベルリン・アレクサンダー広場』は、鬼才ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督によってテレビ映画化されたことで知られているが、本作はブルハン・クルバニ監督がそれを現代版にリブートし、移民を中心に据えた3時間を超える長編大作。アフリカからヨーロッパを目指していた不法移民のフランシスは、船が嵐に遭遇した時に、もし無事に上陸できたなら、今後は心を入れ替えて真面目に生きると心に誓う。その願いは叶い、フランシスはドイツにたどり着く。しかし不法移民としての生活は過酷で、出会った麻薬密売人のラインホルトがフランシスを麻薬売買に引き込もうとする。それに抵抗しきれないフランシスは、徐々に犯罪に手を染めていく。だがそんな中、ある女性と出会ったことでフランシスは運命を変えようとするが…。
2020年、182分、ドイツ語・英語/日本語字幕付
監督:ブルハン・クルバニ
キャスト:ヴェルカー・ブンゲ、アルブレヒト・シュッフ、イェラ・ハーゼ、アナベル・マンデング
配給(日本):東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
マリアム ‐ エヴィーン刑務所に生まれて
監督であり女優でもあるマリアム・ザレーは、政治犯が収容されるイランのエヴィーン刑務所で生を受けた。監督としてのデビュー作となるこのドキュメンタリーで、ザレーは自身の誕生にまつわる暴力的な状況を明るみに出す。1979年のイラン(イスラム)革命によりイラン皇帝が倒れると、最高指導者ホメイニが権力を握り、政治的に対抗する数万人の人々を逮捕、殺害させた。逮捕された囚人の中には監督の両親も含まれており、二人は何年も収容所に収監された後、命を永らえドイツに逃れた。この迫害と刑務所での体験は、家族の間でも語られることはなかった。現在女優、そして作家としても活躍しているザレーが長年の沈黙の壁を破り、カメラを通じて自身の誕生の場所とその状況に切迫する。高い評価を受けた本作は、2020年のドイツ映画賞ドキュメンタリー部門でノミネートされた。2019年、95分、ドイツ語、ペルシア語、フランス語、英語/英語・日本語字幕付
異端児ファスビンダー
1967年、ミュンヘン - 弱冠22歳のファスビンダーは劇団 「アンチテアター」の舞台を席捲したが、この無遠慮極まりない若者がいつかドイツを代表する異才の映画監督になろうとは、当事者のだれもが想像もしていなかった。間もなくこのカリスマに満ち、高い要求を突き付けてくるファスビンダーの下に、俳優、取り巻き連中や恋人などが集結し、次々に発表される新作はベルリンやカンヌの映画祭で話題を集めるようになる。だが若き監督は仕事でもプライベートでも周囲を二極化させ、自身の身体を痛めつけるような無茶な仕事ぶりや過度な麻薬摂取などによって、その犠牲となる者も生まれてくる。監督オスカー・レーラーは、映像の色合いや照明、舞台セットの効果を強く意識した演出により、間もなく没後40年を迎えるファスビンダーの宇宙に深淵に迫る。彼の人生から多くのエピソードを引き出し、天才的監督、愛を求めて彷徨う放浪者、過酷なサディストといった芸術家の多様な側面を見事に展開させていく。2020年、135分、ドイツ語/日本語字幕付
監督:オスカー・レーラー
キャスト:オリヴァー・マズッチ、カティア・リーマン、ハリー・プリンツ、アレクサンダー・シェアー、エルダル・イルディズ、アントン・ラッティンガー、フェリックス・ヘルマン、ヨヘン・シュロップ、シュニ・メレス、イゾルデ・バルト他
オライの決断
妻と喧嘩したオライは、怒りにまかせて彼女の携帯のメールボックスに「タラク」という言葉を残してしまう。それがどんな状況を引き起こすか、敬けんなイスラム教徒の彼にはわかっていた。イスラム教において「タラク」とは、仮離婚の決断を表す言葉である。夫は妻の元を3ヵ月間離れ、距離をおいてから夫婦関係を再度確認する決まりになっている。オライは妻と別れたくないが、信仰に従ってケルンに引っ越し、リサイクル市場の仕事に就き、現地の信徒団に通い始める。しかしある日、突然妻がオライの部屋に現れる。優先するのは妻への愛なのか、信仰なのか?オライは決断に迫られる。本作を通じてメフメト・アキフ・ビュユックアタライ監督は、ドイツにおけるイスラム教徒のコミュニティの等身大の現実を誠実に描いて、未知の世界への窓を開く。
2019年、101分、ドイツ語・トルコ語/ドイツ語・日本語字幕付
監督:メフメト・アキフ・ビュユックアタライ
キャスト:ゼイジュン・デミルオヴ、デニズ・オルタ、ジェム・ギョクタシュ、ミカエル・バイラミ、フェルハット・ケスキン、ファリス・ユズバシュオール、カイス・セッティ
濱口竜介
東京大学文学部卒業後、映画の助監督やTV番組のADを経て、東京藝術大学大学院映像研究科に入学。在学中は黒沢清監督らに師事し、2008年の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスで高い評価を得る。酒井耕監督と共同制作した「東北記録映画3部作」と呼ばれるドキュメンタリー群(11~13)や、4時間を超える長編『親密さ』(12)などでメガホンをとる。15年に発表した監督・脚本作『ハッピーアワー』では、ロカルノ国際映画祭やナント国際映画祭など、数々の国際映画祭で主要な賞を受賞した。商業映画デビュー作品『寝ても覚めても』(18)が、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出される。2020年のベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を獲得した黒沢清監督の『スパイの妻』でも、野原位とともに脚本を手がけている。2021年ベルリン国際映画祭コンペティション部門で、新作映画『偶然と想像』が銀熊賞(審査員グランプリ賞)を受賞。続く第74回カンヌ国際映画祭では『ドライブ・マイ・カー』がコンペティション部門に出品され、日本映画としては初となる脚本賞ほか4つの賞を受賞した。マリアム・ザレー
1983年テヘラン生まれ。フランクフルト・アム・マインで育ち,バーベルスベルク映画大学で演劇を学ぶ。最近では,ドラマシリーズ『4 Blocks』(Marvin Kren監督,2017),映画『未来を乗り換えた男』(Transit, クリスティアン・ペッツォルト監督,2018)および多数の劇場で俳優として活躍している。また,俳優業の傍ら,作家および監督としても活動している。2017年には,劇作『Kluge Gefühle』により,ハイデルベルク演劇祭シュトゥッケマルクトで作家賞を受賞し,2018年には『4 Blocks』での演技により,グリメ賞を受賞。初監督作品である『マリアム エヴィーン刑務所に生まれて』は,2019年のベルリン国際映画祭でプレミア上映され,パースペクティヴ・ドイツ映画部門Compass-Perspektive賞を受賞した。また2020年のドイツ映画賞でドキュメンタリー部門受賞作品。ベンヤミン・ラジャイブプル
1990年ドイツ・テュービンゲン生まれ。2013年ベルリン芸術大学で演劇を学び始め、在学中からベルリンのドイツ座やフォルクスビューネ劇場、ポツダムやリューベックの劇場の舞台に立ち、映画にも出演。2017年卒業後すぐにミュンヘン・カンマーシュピーレ劇場の専属俳優に抜擢され、岡田利規作・演出『No Sex』にも出演した。2019年演劇専門誌『テアター・ホイテ』で新人賞を獲得。『未来は私たちのもの』(ファラズ・シャリアット監督、2019)では主役を演じ、他の2名の出演俳優とともにファースト・ステップス賞のうちのゲッツ・ゲオルゲ奨励賞を受賞した。ドイツ俳優賞の新人部門にもノミネートされた。2020年には映画ODYSSEE(Nikolas Darnstädt監督)やウエブシリーズ DRUCK (監督:Luzie Loose, ファラズ・シャリアット, Sophie Linnenbaum)にも出演。
ダウンロード用チラシ
© Goethe-Institut Tokyo
2019年
ゲーテ・インスティトゥート東京は、3月8日〜3月15日、ユーロスペース(渋谷)にて、ドイツ映画祭 HORIZONTE 2019 を開催しました。2019年は、最新のドイツ映画から厳選した8本の劇映画と2本のドキュメンタリー映画をラインナップしました。上映にあたっては監督や俳優が来日し、それぞれの作品の見どころを紹介しました。どれも若い世代のドイツ人監督、あるいはドイツを拠点にする監督たちによる作品で、彼らを取り巻く多様で切実なテーマが生き生きと描かれています。
HORIZONTE(ホリゾンテ=地平線)への視線は、遠く、未来を、新しく何かが生れる場所を見つめます。この HORIZONTE という名を冠した映画祭は、ダイナミックに変動する新世代のドイツ映画界から厳選した作品を紹介します。
HORIZONTE では、映画賞の受賞などを通じて高く評価されている作品や、社会・政治の現在を映し出すドキュメンタリー作品を上映するだけでなく、観客や俳優を招待し、その生の声を観客に届けます。ゲーテ・インスティトゥート東京によるHORIZONTE 2019 は、German Films とユーロスペース(渋谷)の協力の下、実現することができました。
上映ライナップは以下、8本の劇映画と2本のドキュメンタリー映画です。
『ロミー・シュナイダー〜その光と影〜』(オープニング作品、エミリ・アテフ監督によるQ&Aあり)、『父から息子へ〜戦火の国より〜』、『僕たちは希望という名の列車に乗った』(ラース・クラウメ監督によるQ&Aあり)、『未来を乗り換えた男』(主演俳優フランツ・ロゴフスキによるQ&Aあり)、『キャスティング』、『プチ・ブルの犬』、『希望の灯り』(トーマス・ステューバー監督、および主演俳優フランツ・ロゴフスキによるQ&Aあり)、『明日吹く風』、『マニフェスト』、『ソーシャルメディアの“掃除屋”たち』
German Films
在日ドイツ商工会議所
ユーロスペース
ルフトハンザドイツ航空
TMS
HORIZONTE では、映画賞の受賞などを通じて高く評価されている作品や、社会・政治の現在を映し出すドキュメンタリー作品を上映するだけでなく、観客や俳優を招待し、その生の声を観客に届けます。ゲーテ・インスティトゥート東京によるHORIZONTE 2019 は、German Films とユーロスペース(渋谷)の協力の下、実現することができました。
上映ライナップは以下、8本の劇映画と2本のドキュメンタリー映画です。
『ロミー・シュナイダー〜その光と影〜』(オープニング作品、エミリ・アテフ監督によるQ&Aあり)、『父から息子へ〜戦火の国より〜』、『僕たちは希望という名の列車に乗った』(ラース・クラウメ監督によるQ&Aあり)、『未来を乗り換えた男』(主演俳優フランツ・ロゴフスキによるQ&Aあり)、『キャスティング』、『プチ・ブルの犬』、『希望の灯り』(トーマス・ステューバー監督、および主演俳優フランツ・ロゴフスキによるQ&Aあり)、『明日吹く風』、『マニフェスト』、『ソーシャルメディアの“掃除屋”たち』
パートナー
ドイツ大使館German Films
在日ドイツ商工会議所
ユーロスペース
ルフトハンザドイツ航空
TMS
映画祭予告編
ロミー・シュナイダー ~その光と影~
2018年/ 115分/ ドイツ語・フランス語(日本語字幕つき)1981年、世界的大女優ロミー・シュナイダーは、フランス、ブルターニュ地方のキブロンで静養のために数週間を過ごしていた。そこに、長年の友人ヒルデが訪れてくるが、加えてドイツから青年記者とカメラマンもやって来る。繊細なスター女優と野心的ジャーナリストの攻防が始まる。
1981年のシュテルン誌に掲載された実際のインタビューと、キブロンで撮られた白黒のポートレート写真に基づいて制作された作品。当時の雰囲気を再現した映像に、痛々しいほどに人間らしいロミー・シュナイダーが描かれている。自己顕示とメディア搾取、生への激しい渇望の狭間で揺れる映画スターの複雑な心の内に迫る。本作は2018年のドイツ映画賞にて7部門での受賞に輝いた。
監督:エミリ・アテフ
キャスト:マリー・ボイマー、ビルギット・ミニヒマイヤー、ロベルト・グヴィスデク
父から息子へ ~戦火の国より~
2017年 / 99分 / アラビア語(日本語・英語字幕つき)ベルリン在住のシリア人映画監督タラル・デルキ(『それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜』)は、本作品の制作にあたりシリア北部の家族に2年半にわたり密着した。シリアで活動するアルカイダの関連組織ヌスラ戦線のメンバーを父親に持つ一家の元に滞在する。客として迎え入れられた監督は、戦火を目の当たりにする子供たちの生活を見つめ、特に長男と次男の成長を追った。観客はあるイスラム主義者のプライベートな側面、息子たちをイスラム国家の戦士に育て上げようとする父親としての側面を目にする。戦争の残酷さと家庭生活の内側とが絡み合う深いヒューマニズムの上に成り立ったこのドキュメンタリー映画は、2018年ドイツ・ドキュメンタリー映画賞をはじめ数々の賞を受賞している。
監督:タラル・デルキ
僕たちは希望という名の列車に乗った
2017年 / 111分 / ドイツ語(日本語字幕つき)1956年、東ドイツの模範的労働者都市スターリンシュタットの高校3年生、テオとクルトは列車で訪れた西ベルリンの映画館でハンガリー動乱のニュース映像目にし、いたく心を揺さぶられる。スターリンシュタットに戻ると、自由を求め闘ったハンガリーの犠牲者に、授業中、1分間黙祷することを思いついた。そのことが誰も予測できなかった結果をもたらす。国家権力は少年たちの行動を反革命的行為と断罪、首謀者の名を挙げるよう詰寄る。卒業を目の前に、彼らは将来を大きく変える決断に迫られる。
監督・脚本のラース・クラウメは新人俳優を起用し実力派で脇役を固めた。原作となったのはディートリッヒ・ガーストの自伝的小説『Das schweigende Klassenzimmer』(沈黙の教室)。ドイツ戦後史の心に刺さる一章。
監督:ラース・クラウメ
キャスト:レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、レーナ・クレンケ
配給(日本):クロックワークス / アルバトロス・フィルム
未来を乗り換えた男
2018年 / 101分 / ドイツ語・フランス語(日本語字幕つき)ドイツ軍の迫るパリを逃れ、ゲオルクはマルセイユに辿り着いた。鞄には、迫害の不安に耐え切れず自殺した作家ヴァイデルの遺品である原稿と手紙、そしてメキシコ大使館が発行した入国許可証を持っている。
港町マルセイユで、ゲオルクはヴァイデルのアイデンティティを盗み、船で渡航する機会を掴み取ろうとする。ある日、マリーに出会ったゲオルクは計画の変更を迫られる。『東ベルリンから来た女』で知られるペッツォルト監督は、アンナ・ゼーガースが1941~42年、亡命中に執筆した小説『トランジット』を原作とし、舞台を現在のマルセイユに移した。大戦当時と今の難民たちの姿が重なりあい、過去と現在が時空を超えてつながり、全ての物語は、この永久の「トランジット(中継)」地へと集結する。
監督:クリスティアン・ペッツォルト
キャスト:フランツ・ロゴフスキ、パウラ・ベーア、ゴーデハルト・ギーゼ
キャスティング
2017年 / 91分 / ドイツ語(日本語字幕つき)初めて監督するテレビ映画にファスビンダーの『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のリメイク版を選んだ監督のヴェラ。繰り返しオーディションを行うが撮影初日を前に主役が決まらない。不安を感じ始めるプロデューサーや撮影チームをよそに、ゲルヴィンはそんな状況を歓迎している。オーディションを受けに来る有名女優たちの相手役として、台詞を合わせることが仕事だからだ。主演男優が突然役を降りることになると、ゲルヴィンはチャンスとばかり色めき立つ。ヴァッカーバルト監督はファスビンダーの複層的な原作に対応しながら、独自の作品世界を作り上げた。鋭い視線で、権力や欲望に支配された人間関係の深淵に切り込み、面白くも辛辣にドイツテレビ界のパワーゲームと依存関係に光を当てる。
監督:ニコラス・ヴァッカーバルト
キャスト:アンドレアス・ルスト、ユディット・エンゲル、コリンナ・キルヒホフ
プチ・ブルの犬
2017年 / 99分 / ドイツ語・英語(日本語字幕つき)大志を抱きながらもパッとしない映画監督ユリアンはいくつもの助成申請を却下され、やむをえず農家で収穫作業をすることになる。ユリアンが共産主義の理想を謳うメルヘン映画の主役に口説いていたカナダ人女性カミーレも成り行きで同行し、ふたりはリンゴ農家にたどり着く。肉体労働で使い物にならないユリアンを尻目に、カミーレはありもしない映画の準備に没頭し、奇跡を信じるホンとサンチョという友達もできる。さらには、アメリカン・ドリームを掲げた模範的労働者や、不思議な僧侶も現れ混乱を深める。
ラードルマイヤー監督の長編デビューは、政治的態度を模索する今日の若い世代が抱えるジレンマを独特のコメディータッチで描き2017年のベルリン国際映画祭で大きな反響を得た。
監督:ユリアン・ラードルマイヤー
キャスト:ユリアン・ラードルマイヤー、デラ・キャンベル、キョンテク・イ、ベンヤミン・フォルティ
希望の灯り
2018年 / 125分 / ドイツ語(日本語字幕つき)旧東ドイツのとある巨大スーパーで働き始めたクリスティアンは、その未知の小宇宙にそっと降り立つ - 長い通路、延々と続く商品棚、フォークリフトのシュールなメカニズム。軽い気持ちでクリスティアンの気を惹こうとするマリオンに、クリスティアンは恋をしてしまう。ところが急にマリオンは職場に来なくなり、落ち込むクリスティアンは、かつての惨めな生活に引き戻されていく。
ステューバー監督は、壁崩壊から30年、旧東ドイツの地方で単純労働者として運命を共にする人々の生活と、その密接な人間関係をこれまでとは違った視座から描いた。現実、憧れや夢などが堅実にフレーミングされた映像の中に収められ、巨大スーパーの冷たい宇宙は、魔法をかけられたような空間に変貌する。
監督:トーマス・ステューバー
キャスト:フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルト
明日吹く風
2018年 / 97分 / ドイツ語(日本語字幕つき)これまでの人生を捨ててしまうことはいつだってできる。今すぐにでも。その電車から、車から、自転車から降りてどこかに行ってしまえばいいのだ。43歳のパウル・ツァイゼは、普通だったら振り払ってしまうこんな考えをある日実行に移してしまう。妻、仕事、すべての身分と地位を捨てて。気のいい役立たずとして人にたかりながら放浪するパウル。勝手に人の車に同乗し、呼ばれてもいないパーティーや葬式に参列する。そしてある日、少し風変わりなネレと出会い恋に落ちる。次第に自分のペースにパウルを引き込んでいくネレ。
ユリアン・ペルクセン監督は長編デビューとなる本作で、現代の忙しい生活から逃れて気ままな暮らしに身を置いた時に待ち受ける混乱を、ユーモラスかつメランコリックに描いている。
監督:ユリアン・ペルクセン
キャスト:セバスチャン・ルドルフ、ニルス・ボアマン、エファ・レーバウ
マニフェスト
2017年 / 95分 / 英語(日本語字幕つき)『マニフェスト』ではオスカー女優ケイト・ブランシェットが時に教師、また時にホームレスとなり、ポップ・アートからドグマ95まで、20世紀のさまざまな芸術の潮流を作り上げた宣言を13のエピソードで演じる。映像作家ユリアン・ローゼフェルトによる監督のもと、国や時代、社会的身分や性別を越えたキャラクターを一人で演じきるブランシェットの演技力は圧倒的だ。作中、未来派やダダ、フルクサスなど、芸術組織のテキストや、芸術家個人の思索を監督が編集、13のコラージュに再構成した。芸術におけるマニフェストとは、新しいものを生み出す可能性と、教義として凝り固まる危険を併せ持つ。この映画は、そのマニフェストのアンビバレントな役割を見事に描き出している。
監督:ユリアン・ローゼフェルト
キャスト:ケイト・ブランシェットほか
ソーシャルメディアの“掃除屋”たち
2018年 / 88分 / 英語・タガログ語(日本語字幕つき)世界規模でデジタルコンテンツ検閲を行うマニラの巨大な影の産業を追ったドキュメンタリー映画。そこでは、シリコンバレーに委託され、何万人というコンテンツ・モデレーターが、フェイスブック、YouTube、ツイッターなどの問題のある投稿を削除している。残酷な表現に継続的に晒される作業は、作業員たちの認識能力や人格に異常をもたらすが、作業に関わる経験は口外厳禁だ。本作はコンテンツ・モデレーターを取り上げながら、フェイクニュースやヘイト・コンテンツがネットを通じて拡散・扇動される様子を映し出す。
監督のブロックとリーゼヴィークは、この作品でソーシャルメディアの理想と夢が破れる様を描き出し、その社会への重大な影響力に警鐘を鳴らす。
監督:ハンス・ブロック、モーリッツ・リーゼヴィーク
フランツ・ロゴフスキ(『未来を乗り換えた男』、『希望の灯り』主演)
プロフィール1986年フライブルクに生まれたフランツ・ロゴフスキは、ダンサーであったが、映画監督ヤコブ・ラスに見出され『Frontalwatte 』(2011年)及び『Love Steaks』(2013年)の俳優に抜擢される。後者での演技は、ミュンヘン映画祭において最優秀俳優部門で新しいドイツ映画奨励賞を授賞した。
2015年にはミュンヘン・カンマーシュピーレの所属俳優となり、セバスチャン・シッパーの『Victoria』やヘンリク・シュタールベルクの『Fikkefuchs』の主演俳優として、またミヒャエル・ハネケやテレンス・マリック作品での演技を通じ、俳優としての知名度が高まってゆく。2018年に公開されたダニエル・ヴィルトの『LUX – Krieger des Lichts』での演技も注目されている。最新出演作であるトーマス・ステューバーの『希望の灯り』及びクリスチャン・ペッツォルト『未来を乗り換えた男』は共にベルリン国際映画祭に招待されている。ロゴフスキは同映画祭でヨーロッパの若手俳優に与えられるシューティング・スター賞を受賞している。『希望の灯り』での演技は最優秀主演男優賞を授賞した。
主な作品
『Love Steaks』(2013年)、『Victoria』(2015年)、『Tiger Girl 』(2017年)、『Fikkefuchs』(2017年)、『LUX – Krieger des Lichts』(2018年)、『未来を乗り換えた男』(2018年)、『希望の灯り』(2018年)
トーマス・ステューバー(『希望の灯り』監督)
プロフィールライプツィヒ生まれの映画監督トーマス・ステューバーは、映画業界での研修経験を積んだのち、2004年よりバーデン=ヴュルテンベルク州立映画アカデミーで劇映画を学ぶ。2008年の監督作品『Teenage Angst』がベルリン国際映画祭のセクション、パースペクティヴ・ドイツ映画部門に招待された。
2011年の卒業制作『Von Hunden und Pferden』はファースト・ステップ・アワードにノミネートされた。この作品はドイツ短編映画賞を受賞し、翌年の学生アカデミー賞で銀賞を受賞している。
2011年の卒業以降、最初の監督作品となった『Herbert』はトロント国際映画祭で初演され2016年のドイツ映画賞では銀賞を受賞した。『希望の灯り』は2015年にドイツ脚本賞を受賞、ベルリン国際映画祭においても2部門で賞を獲得、ドイツ映画賞にもノミネートされた。
主な作品
『Teenage Angst』(2008年)、『Herbert 』(2015年)、『希望の灯り』(2018年)
ラース・クラウメ(『僕たちは希望という名の列車に乗った』監督)
プロフィール1973年、イタリアのキエーリに生れた映画監督・作家のラース・クラウメは、フランクフルト・アム・マインに育った。広告やポートレイトなどの分野でアシスタントとしての経験を積んだのち、1992年に初の短編映画を監督する。1994年からはベルリン映画テレビアカデミーに学び、1998年の卒業制作『Dunckel 』は、同年、アドルフ・グリム賞を受賞した。
後に『Lieder über Liebe』(2005年)や『Guten Morgen, Herr Grothe』(2007年)などの作品でベルリン国際映画祭のパノラマ部門に招待された。2008年には再びアドルフ・グリメ賞を受賞、他にもテレビシリーズTatortにも監督作品がある。『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』は2016年、ドイツ映画賞を受賞。『僕たちは希望という名の列車に乗った』で再び2018年のドイツ映画賞にノミネートされ、ドイツ映画平和賞「橋」を受賞した。
主な作品
『Lieder über Liebe』(2005年)、『Guten Morgen, Herr Grothe』(2007年)、『Tatort 』(2011-2014年)、『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(2015年)、『僕たちは希望という名の列車に乗った』(2018年)
エミリ・アテフ(『ロミー・シュナイダー ~その光と影~』監督)
プロフィール1973年生まれの映画監督エミリ・アテフは、ドイツ、フランス、イランにルーツを持っている。ロサンジェルスとパリで子供時代を過ごし、ロンドン・シアターで舞台女優としてキャリアをスタートさせた。その後、ベルリンドイツ映画テレビアカデミー(dffb)で演出を学んだ。
監督した初の長編映画『Molly’s Way』で、2005年、ミュンヘン映画祭ドイツ映画奨励賞最優秀脚本賞を受賞。続く『Das Fremde in mir』はカンヌ国際映画祭で初演され、さまざまな賞を受賞した。他の監督作品に映画『Töte mich』(2011年)やテレビ映画『Königin der Nacht』(2016年)、『Wunschkinder 』(2016年)、『Macht Euch keine Sorgen』(2017年)がある。2018年の『ロミー・シュナイダー ~その光と影~』は、第68回ドイツ映画賞において最優秀作品賞ほか複数部門を受賞した。
主な作品
『Molly’s Way』(2005年)、『Das Fremde in mir』(2008年)、『Töte mich』(2011年)『Wunschkinder 』(2016年)、『ロミー・シュナイダー ~その光と影~』(2018年)
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