ヨーロッパ文芸フェスティバルの枠組みにおいて、作家トーマス・メレが来日、著書『背後の世界』を紹介し、『背後の世界』の邦訳を手がけた金志成と作家の町田康を交えてディスカッションを行う。
今日における人間のもろさをテーマとした『背後の世界』は、痛みや不安、時には信じられないほどのユーモアに満ちた作品である。本書の中でトーマス・メレは、精神疾患をかかえた自身の日常について語っている。メレは見るからに精緻な文体を駆使して、ニューロンの花火の中で狂気に陥った自分の姿を描写し、病的な妄想に侵された滑稽かつ研ぎ澄まされた自身の意識を壮大な文学世界へと解き放つ。双極性障害にかき立てられるようにしてクラブやコンサートホール、治療施設を巡るうちに、偶然にも今日のポップカルチャーの様相を映し出すことになった。
この本は2016年、ドイツ書籍賞にノミネートされ、メディア、読者を問わず称賛を得た。また、文芸翻訳の新たな社会的試みであるメルク・ソーシャル・プロジェクトにも選出された。これは、アジアの10カ国から選ばれた翻訳者10名が相互に意見交換をし、著者とも密接にやり取りしながら、ひとつの作品をそれぞれの母語へ翻訳するプロジェクトである。
『背後の世界』の日本語訳は、河出書房新社より出版される。
Thomas Melle
1975年生まれの
トーマス・メレは、テュービンゲン、オースティン(テキサス州)、ベルリンで比較文学と哲学を学んだ。戯曲を執筆する傍らウィリアム・T・ヴォルマンやトム・マッカーシーなどの作品をドイツ語に翻訳した。デビュー小説『Sickster』(2011年)はドイツ書籍賞にノミネートされ、フランツ・ヘッセル賞を受賞した。続く2014年の小説『3000 Euro』もドイツ書籍賞の候補に挙がり2015年にベルリン芸術賞を受賞。2016年の『背後の世界』もドイツ書籍賞の候補となり、クロプシュトック賞を受賞した。2017-18年には、フランクフルトの文学賞「Stadtschreiber von Bergen」(フランクフルト市ベルゲン地区のStadtschreiberhausに滞在する権利と2万ユーロの賞金が与えられる)を受賞した。現在、ベルリンとウィーンを活動の拠点としている。
Jisung Kim
1987年生まれの
金志成は、早稲田大学にて学び2018年博士号(ドイツ文学・語学)を取得する。博士課程在学中、日本学術振興会特別研究員を務め、ベルリン自由大学にドイツ学術交流会(DAAD)奨学生として留学。2018年以降、早稲田大学でドイツ文学・語学を教える。
Ko Machida
1962年生まれの
町田康は小説家、パンクロック歌手、詩人、俳優。1996年にデビュー小説『くっすん大黒』が出版された。この作品でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。ノンセンスや不合理、どたばた喜劇の要素を含んだ彼の描く独特な物語スタイルは、上方落語や時代劇に影響を受けている。2000年に小説『きれぎれ』で第123回芥川賞、2005年に小説『告白』で谷崎潤一郎賞を受賞した。
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